レンズは●●に弱い
メガネレンズ(プラスチックレンズ)は一見すると、
ただのレンズ(ただのレンズって何だ、ということではありますが。笑)
に見えますよね。
しかし、実は快適な視界を確保するために
プラスチックレンズには様々なコーティングがされています。
コーティングというのは、薄い膜の層のことです。
しかも、この薄い膜も1つだけではなく、
目的に応じて様々な膜が施されています。
レンズの断面を拡大すると次のようになっています。(最低限のコート)
レンズ基材に直接施されているのは
「ハードコート」と言って、
プラスチックレンズの最大の欠点である
「傷」をつきにくくするための処理です。
ただ、これは必要最低限の処理で、更に傷を付きにくくする
【超硬コート】もハードコートとは別にあります。
傷に強い【超硬コート】をもっと詳しく知りたい方は
→ 傷に強いレンズ
「ハードコート」の更に外側に施されている
コーティングは「反射防止コート」です。
これは、簡単に言うとレンズの「透明度」を
上げるための処理です。
この処理をすることによって、チラツキをなくし、
クリアな視界を得られます。
一般的には、7~8層以上の多層コートで
層が多くなるほど透明度は高くなります。
余談ですが...
この「反射防止コート」をしない
「ハードコート」のみのレンズをわざと使用する人もいます。
ハードコートのみだと当然チラツキが多くなるので
メガネを掛けてる本人にとっては、ちょっと見づらい..です。
では、なぜあえてこのレンズを選ぶのかというと、
外の景色がレンズ表面で反射して
レンズ表面に外の景色が映りこむ(鏡のような感じ)ので
他人から目が見えにくくなってミラー的な効果が多少あり、
それを好む人や、レンズの存在をわざと醸し出したい
(レンズがキラリ、的な)人はこれを選択します。
さらに、キラリ感を出したい方はフラットレンズ
(製作できる度数は限られます)にするとその効果は大きいです。
時々、ドラマでも俳優さんがかけてるメガネに
こういうレンズを使用している場合がありますね。
また、このハードコートさえもしていない
「ノンコート」と呼ばれるレンズもあります。
これは低価格のサングラスなどに使われる場合があります。
●●に入る答えは
前置きが長くなってしまいましたが(汗)
これら繊細なコーティングは、
熱(ねつ)に弱いのです。
ということでタイトルにある●●の答えは
「ねつ」ということです。
では、熱が加わると、このコーティングはどうなってしまうのか...
プラスチックレンズは
有機質と無機質の組み合わせで出来ています。
有機質のプラスチック基材は約60℃以上の熱が加わると
体積が急に膨張する性質があります。
しかし、無機質の反射防止コートは、きわめて薄い金属膜で
ほとんど膨張しない為、プラスチックの膨張に耐え切れず
クラック(ヒビ割れ)が発生します。
次のような、無数の細かい線が「クラック」です。
また、このクラックからレンズの表面の
コーティングが剥がれてくる場合があります。
これは、キズからも同様ですが、クラックやキズから
水分などが染み込み、コートを浮かせて剥がしていきます。
コート剥がれ
日常に潜む熱の危険
では、熱によるクラックが入ってしまう
よくある事例を挙げてみましょう。
車のダッシュボードの上に置いたままにしておく。
炎天下の車内温度70℃~80℃
焼肉の鉄板や炭火の放射熱(約70℃)にあたる。(鉄板の横に置いておく)
クッキングヒーターの高温に近づいた。(トッププレート約120℃)
焚き火やバーベキューの火のそばに近づく。
サウナにメガネをしたまま入る。サウナ中段で80℃
ドライヤーの熱風にあたる。10cm離れても70℃以上
夏の砂浜に放置。砂上温度60℃以上
ヒーターの熱風にあたる。吹き出し口付近の温度は80℃以上
急激な温度差にも注意してください。
熱以外にも急激な40℃以上の温度差によっても
クラックの危険性が高まります。
実際にあった事例
当店の事例を紹介しますね。
事例①
「車の助手席にメガネを置いて、数時間後に戻ってきて
メガネを掛けたら見えにくくて、レンズを見たら表面が
歪んでいた。昨日までは何でもなかったのに...」
これは、車を離れるときは日光が直接当たっておらず、
戻ってくるまでの間に太陽が傾いて、一定時間メガネが
直射日光を浴びていたと考えられます。
直射日光が当たったハンドルとか、超熱い!のは
みなさんご承知の通りなので、メガネレンズにそれが
当たってしまうと短時間で一発KOです。
ちなみに外気温25度でも、ダッシュボードの直射日光が
当たる場所は70度以上にもなります。
ダッシュボードの中も60度くらいにはなってますので、
基本的に車の中には置かない方が良いでしょう。
事例②
「買ったばかりなのに、レンズに傷が入っている」
と相談がありました。
レンズを拝見すると、キズではなく、熱によるクラックでした。
熱による現象である旨の説明をしましたが、
常にメガネを掛けているので、熱に曝した記憶がないとのこと。
そこで、いろいろなケースをひとつひとつお尋ねしていったところ
焚き火をしていた、ということに思い当たりました。
このように、原因が分かる場合もありますが
意外と思い当たらないことも多いです。
大体の方は気が付かないうちになってしまっています。
これは、日常で意外と温度自体を気にしていないことが考えられます。
例えば、
45度のお風呂は熱いと感じますが、90度のサウナでは我慢できる
というように。
ですので、前述の事例もそうですが、それ以外でも
温度に対して少し気をつけていれば防げますので
覚えておいてくださいね。
キズよりも熱によるクラック
最後になりますが、メガネを新しく作る際に
「キズが付いて見にくくなったから」
という理由の方のメガネを拝見すると、
キズではなく、クラックによるものが結構な割合であります。
是非、熱には気を付けるようにしてくださいね。